「加工忘れ」と話したのに、文字には「書き忘れ」と出た
「加工忘れ」が「書き忘れ」になれば、翻訳自体が正しくても現場へは違う意味が伝わる。認識された日本語を修正すると、ベトナム語訳も自動で更新する工場用翻訳画面の記録。
正しい翻訳より先に、元の日本語を直せる画面を作った
この記事の素材を音声で話している途中、ぼくが言った「加工忘れ」が、文字では「書き忘れ」になった。似ているようで、意味はまったく違う。この日本語をそのままベトナム語へ渡せば、翻訳自体が正しくても、現場へは間違った意味が伝わる。
うちでは、前工程と次工程の数が1個合わなくなったことがあった。加工忘れがどこかにある可能性が出たため、最後に数が合っていた場所より後の製品を全数検査した。
「400と書く」は伝わっていた
本来、残してほしかったのは、一箱が終わったときの機械の累積カウンターだった。一箱目の終わりが400、次の箱の終わりが799なら、「400」「799」と書く。箱はいつも400個入りではなく、350個などの場合もある。箱の終わりで数を残すから、前後の工程でつながりを確かめられる。
しかし、実際には箱の終わりではなく、カウンターが400になった製品に「400」と書く作業として伝わっていた。「400と書く」という手順は伝わっても、なぜ箱の終わりに数を残すのかは伝わっていなかった。
言葉が十分に通じないと、お互いに「分かったつもり」で仕事を進めてしまう。安全、品質、加工手順を扱う現場で、そこを曖昧にしたままにはできない。
訳文ではなく、元の日本語を直す
そこで、日本語とベトナム語を双方向に翻訳するWebアプリを作った。従業員がいつも使っているダッシュボードに「翻訳」ボタンを置いた。新しいURLやブックマークを探さなくてよい。
これは、日本人がベトナム人へ説明するためだけの道具ではない。ベトナム語で話せば日本語になるため、ベトナム人の従業員からも問題や違和感を返せる。日本人もベトナム人も、同じ入り口と同じ画面を使う。
使い方は「スタート」を一度押して話すだけにした。日本語で話せばベトナム語へ、ベトナム語で話せば日本語へ自動で切り替わる。話す言語も翻訳方向も選ばない。
日本語で話すと、認識された日本語とベトナム語訳が同時に表示される。「片当て」を「型当て」、「ダレ」を「誰」と認識することがあった。100%ではないが、専門用語辞書を調整し、ほとんどは正しい日本語に整えられるようになった。

動作確認では、「この製品は片当てなので、しっかり左寄せにして、ダレを上に置いて設置してください」と話した。片当ては、製品のガイドが片側だけにあるため、その側へしっかり当てて置く作業を示す。「型当て」になると、その意味が変わってしまう。
それでも間違いが残れば、表示された日本語をテキストで直せる。「型当て」を「片当て」に修正すると、ベトナム語訳も自動で更新される。翻訳ボタンを押し直す操作は入れなかった。会話の速さは止めず、間違ったときだけ人が直せるようにした。

訳す言葉と、訳さない言葉を選ぶ
辞書の言葉は、すべて同じ扱いにはしていない。「バリ」と「ダレ」は、現場の共通語として音を覚えてもらうため、ベトナム語に置き換えず、文中に「bari」「dare」と残す。一方、「片当て」は作業の意味が伝わる方がよいため、ベトナム語へ翻訳する。音で共通語にするのか、意味を翻訳するのかを、自分たちで選べるようにした。
読み上げ機能は付けていない。工場の騒音で聞き取りにくく、音声生成のAPI費用も増えるからだ。文字なら、聞き直さず画面で確かめられる。工場で実際に使いやすいかは、これから確かめる。
AIモデルはOpenRouter経由で呼び出している。特定のモデルに固定せず、今後の精度や料金に応じて変更できる。アプリ内の使用量計算では、約50回試した時点で0.03ドルだった。1ドル約155円で約5円になる。実際の請求額と一か月の費用は、今日から確かめる。
今日から、現場へ入れる
実装は完了し、今日から現場へ入れる。新しい道具に消極的な人もいるので、すぐ全員が使うとは思っていない。ただ、安全、品質、加工手順をしっかり伝えたい場面で、一回でも使われればよい。
普段の短い声かけをすべてアプリに置き換えるつもりはない。理解がずれると加工ミスにつながる説明で、意味を確かめるために使いたい。
ぼくが作りたかったのは、ただ外国語へ変える画面ではない。間違った日本語を、正しく翻訳してしまう前に止められる画面だ。