写真を残す機能を作った。でも、写真は増えなかった
数年ぶりの金型の設置方法を、過去の一枚の写真で思い出せた。一方、写真を残す機能を作っても撮影習慣は広がっていない。記録を次回へ返す画面と、まず二人で試す端末構想の記録です。
撮る人を増やす前に、見たくなる環境を作る
現場のダッシュボードに、写真を残す機能を作りました。しかし、作業者が写真を撮る習慣は、まだほとんど広がっていません。機能があれば記録が残るわけではない。その理由が、今回話しているうちに少し見えてきました。
数年ぶりの金型を、一枚の写真が助けた
何かを次の人へ伝えるとき、テキストの方が分かりやすいこともあります。一方で、写真一枚の方が、瞬間的に正確で多くの情報を伝えられることもあります。どちらか一方ではなく、テキストも写真も、次回への準備として残せます。
金型の設置方法、製品の箱への入れ方、油を塗る場所、焼きつきやすい場所。こうした内容は、写真が得意です。ぼくの工場には、すごく加工しにくい金型があります。金型の外に材料を置く補助台を作るような、少しイレギュラーな仕事です。
数年ぶりにその仕事をすると、「これ、どうやって設置したんやっけ」となります。普通の金型なら普通に取り付けられます。しかし、イレギュラーな段取りは、何年も経つと思い出せません。そのときに過去の写真を見ると、「あ、そうか」と思い出せました。普通の作業より、久しぶりに行うイレギュラーな作業ほど、写真を残す価値があります。
写真フォルダから探す仕組みではない
ぼくが作ったダッシュボードでは、今から加工する製品を最初に選びます。その状態で写真を撮ると、写真はその製品に紐づきます。次回、同じ製品を呼び出すと、金型を設置するときや箱入れするときに、前回の写真を見られます。
写真を撮ることと同じくらい、必要なときに出てくることが重要です。写真フォルダから過去の画像を探すのではありません。加工する製品を選んだら、その製品に必要な写真がそこにある。記録は、残す場所より、必要な瞬間に戻ってくる場所まで設計する必要があります。
機能はある。それでも撮られない
今使っているタブレットにはカメラがあるので、撮ろうと思えば撮れます。問題は、プレス機の周りにタブレットの置き場所がないことです。その辺に置いて落とし、画面が割れた経験もあります。作業者は今から加工する製品を入力したら、タブレットを袋にしまいます。
写真を撮るには、袋からもう一度取り出さなければなりません。しかも、撮らなくても今の加工は終えられます。写真が役立つのは次回で、次の作業者が同じ人とも限りません。ただ、今の作業に必要のない「次回への準備」に、一手間かかる。これは習慣が広がりにくい設計です。
写真を残すのは、現在ほぼぼくです。たまに誰かが撮ってくれていると、すごくうれしく思います。しかし、その写真が次回役立ったことが、撮った人へ返る仕組みも声かけもありません。見る習慣がないから撮る習慣も生まれにくく、撮る人が増えないから見る写真も増えません。
ぼくは、写真を残すことが「褒められる特別な行動」ではなく、普通の仕事になってほしいと思っています。
撮る事を求める前に、見たくなる環境を作る
話しながら気づいたのは、写真の機能だけを使ってもらおうとしていたことです。ダッシュボードには、時間あたりのショット数、現在のショット数、進捗率、終了予定時刻、現在のロットの加工履歴など、今加工している本人にも役立つ情報があります。
現場では別に、M5StickCとRFIDを組み合わせ、誰が加工しているか、現在のショット数、今何パーセント終わったかを表示する仕組みも試しています。この表示を見ている作業者もいますし、「見える方がいい」という話も聞いています。
ぼくも加工をするので、気持ちは分かります。時計を近くに置く人がいるように、あとどれくらいで終わるのかが分かるだけでも、仕事をしやすく感じます。「いつ終わるんやろう」ではなく、終了予定時刻を見ながら加工できれば、仕事にメリハリが生まれます。
次の人のための写真だけでは、画面を見続ける理由は弱い。今仕事をしている人にも役立つ情報が見えるから、ダッシュボードを開いておく理由が生まれます。疑問に思ったら過去の写真や注意事項を見る。「これは残しておこう」と思ったら、その場で撮る。その流れなら、写真を残すことを普通の仕事に近づけられるのではないか。ここは、これから確かめる仮説です。
まず二人で試す
現在考えているのは、タブレットではなく、少し大きめのAndroidスマートフォンを業務用端末として持ってもらう案です。会社支給で、SIMは入れず、工場内のWi-Fiだけで使います。機械の横に置きやすく、タップ機や専用機にも持って移動できます。
ダッシュボードはNext.jsで作ったWebアプリで、レスポンシブ対応しています。ただし、スマートフォンで使いやすくする修正は必要です。まだ思いついた段階で、実装も検証もできていません。いきなり全員分を用意せず、まずは二人程度から試す考えです。
見たいときに見られる。残したいときにその場で残せる。そして、次回同じ仕事を呼び出したとき、前の人の気づきが画面に戻ってくる。記録文化は「記録してください」と頻繁に言うことではなく、簡単に撮れて、普段から見たくなる環境から生まれるのだと思います。
ぼくが作りたいのは、写真を撮った人が褒められる現場ではありません。誰も特別なことをしたと思わず、気づきやコツを次の人へ残している現場です。そこまで普通にできる環境になるか、まず二人と試してみます。