現場DXで一番難しいのは、機能を作ることではなかった

製品名を一文字間違えるだけで検索結果が出ず、作業が止まる。三回押すことより、四回でも迷わないことを選んだ、自社工場のダッシュボードと現場UIの改善記録です。

便利な機能を作れば、使ってもらえると思っていました

現場DXで難しいのは、機能を作ることではありません。作った機能を、仕事を止めずに使ってもらうことです。

ぼくは自社工場の稼働を記録するダッシュボードを作っています。現在、作業を始めるときの操作は三つです。

  • 機械を選ぶ

  • 製品を選ぶ

  • 自分の名前を押す

ここまで終われば、製品、機械、時間、ショット数が自動で蓄積されます。加工が終われば、カウンターの値と一緒に送信します。不良が出たときだけ、その内容を追加で入力します。

毎回すべてを書かせるのではなく、通常の作業では選択だけで記録が残るようにしました。それでも、現場で止まる場面がありました。

製品名を一文字間違えると、候補が出ない

金型には番号を振っています。しかし、マジックで書いた番号が消えていることがあります。一つの金型を複数の製品で使う共用金型もあります。

そんなときは、製品名や品番で検索しなければなりません。作業者は製品名を最初から全部入力しようとします。一文字でも違えば候補が出ません。

画面には製品がないと表示され、そこで「できません」と止まります。ぼくが代わりに品番の数字だけを入れ、製品を選ぶことがありました。

ひらがな入力と英字入力の切り替えを聞かれることもあります。ぼくにとっては簡単でも、その操作を普段しない人には仕事を止める原因になります。

最初のぼくは、検索欄があれば誰でも使えると考えていました。しかし、検索するには、入力する文字と探し方を知っていなければなりません。画面を簡単に作ったつもりでも、キーボードの操作まで含めれば簡単ではありませんでした。

そこで、ひらがなでもカタカナでも検索できるようにしました。半角と全角の違いも吸収し、品番の一部の数字だけでも候補が出るようにしました。ただし、この修正で質問がどれだけ減ったかは、まだ測れていません。

三回より、迷わない四回を選ぶ

それでも文字入力は残ります。今は、受注時に登録したロットを一覧から選ぶ仕組みへ直しています。完成形は「機械→ロット→工程→名前」の四つです。

一工程目の作業者は、受注中のロット一覧から対象を選びます。二工程目以降の作業者は、加工中のロット一覧から引き継ぐ対象を選びます。製品名を思い出して検索するのではなく、今動いている仕事から選べるようにする考えです。

現場端末の画面全体。上から機械の選択、作業者名のボタン、金型番号とロット、進捗バー、注意事項の欄、一日の稼働グラフが縦に並ぶ
現場で使っているダッシュボード。氏名・製品名・数値は掲載用のサンプルです

今よりボタンを一つ多く押します。ただ、ぼくが減らしたいのはタップの回数だけではありません。

  • 正確な製品名を覚えること

  • 慣れない文字を入力すること

  • 候補が出ない理由を考えること

四回押しても迷わない方が、三回の途中で文字入力が必要になるより現場には合う。今はそう考えています。

写真一枚が、数年後の段取りを助ける

ダッシュボードには、写真、動画、テキストで加工の注意点を残す機能もあります。情報は製品の工程ごとに紐づき、次回その工程を始めると画面へ表示されます。

注意事項の入力欄の右下にある写真スラッシュファイルのボタンが赤丸で囲まれ、このボタンで写真が撮れる、と注釈が入っている
写真を残すためのボタン。押せば撮影して、その工程に紐づく。画面は掲載用のサンプルです

この記録に助けられたことは何度もあります。何年かぶりの製品で寸法が出なかったとき、以前お客さんへ確認した内容が残っていました。取り付け方が分からない古い金型も、過去の写真を見れば分かりました。

普通に加工すると変形する製品で、以前うまくいった方法を忘れ、また同じように悩んだこともあります。写真一枚、注意書き一行が残っていれば、次回は一から悩まずに済みます。

問題は、この機能もあまり使われていないことです。気づけば、記録の大半をぼくが入力しています。

作業者には「残してください」と頼みました。「次からやります」と返事はあります。しかし、なぜ残さないのかは聞いていませんでした。

ぼくは操作の難しさばかり見ていました。それだけでなく、今ここで写真を一枚残すことが、次回の自分を助けると伝え切れていなかった可能性もあります。

写真を撮るだけなら簡単だと思っていました。しかし、簡単かどうかを決めるのは、作ったぼくではありません。作業中の人が、気づいた瞬間に迷わず残せるかどうかです。

音声で話した内容をAIで整え、注意事項として保存する方法も考えています。ただし、これはまだ構想だけです。工場は音が大きく、音声入力そのものが難しいという問題も残っています。

端末の置き場所までが現場UIだった

当初は作業者ごとにタブレットを渡しました。スマートフォンに近い操作なら使いやすいと考えたからです。しかし、持ち歩くうちに落下と画面割れが続きました。

買い足し続けるのをやめ、今は現場に共用パソコンを一台置いています。ところが、共用パソコンでは入力するときしか画面を見ません。本当は、作業中も加工の注意点や一時間あたりのショット数を見てほしい。

理想は、機械のそばへ固定し、写真を撮るときだけ外せる端末です。まだ答えは出ていません。

アプリを作れるようになっただけで、現場がDXできたとは言えません。ぼくの工場でも、劇的に生産性が上がったという結果はまだ出ていません。

まず必要なのは、作業者に操作を覚えてもらうことではありません。覚えなくても使えるところまで、仕組みを現場へ合わせることです。

現場のデジタル化では、何を入力してもらうかより、何を入力しなくてよくするか。この視点から、もう一度ダッシュボードを作り直しています。

あなたの現場では、作業を始めるまでに、作業者へ何回の操作と判断を求めていますか。

実践・執筆M-LABO
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