単価6円の計算から始めた工場のデータベースが、改善のハブになるまで
加工者の腕の差だと思っていたものが、箱入れや段取り、機械が止まっている時間の差だった。単価6円の採算確認から始めた小さなデータベースが、金型・図面・勤怠・工程表をつなぐまでの記録です。
工場の数字を集めて分かったのは、動いている時間より、動いていない時間の方が大事だったことです。ぼくが工場のデータを取り始めた理由は、すごくシンプルでした。
「今、この工場は本当に利益が出ているのか」
まず見えたのは、赤字でした
プレス加工は、1時間に何個作れたかで、その1時間の売上が決まります。例えば単価6円の製品なら、数字はこうなります。
- 300個なら売上1,800円
- 400個なら売上2,400円
どちらも現在の目標時間チャージには届きません。300個では人件費にも届かず、400個でも、そこから電力や固定費がかかります。この条件で受ければ、やればやるほど赤字になります。
単価6円という仕事は普通にあります。問題は個数の方です。当時のぼくは、感覚で「しんどい仕事やな」と思うことはあっても、いくら足りないのかを数字で言えませんでした。

そこでプレス機に簡単な機器を取り付け、MQTTで「誰が、いつ、何個作ったか」をデータベースへ送り始めました。最初に使ったのは、SynologyのNASに付いていたMariaDBです。決して高価なシステムから始めたわけではありません。
現在は約12台の機械と、6〜8人程度の稼働を扱っています。これまで、データベースのスペック不足で困ったことはありません。最初から大きな設備を用意しなくても、知りたい数字を貯めるところから始められました。
本当に見るべきは、止まっている時間でした
毎日の稼働データが貯まり始めると、それまでは見えなかったことが見えてきました。最も大きかったのは、稼働時間を見るだけでは足りないと気づいたことです。
加工者によって、仕事が早い人と遅い人がいるように見えることがあります。ところがデータを見ると、実際にプレス加工している時間は、あまり変わらない場合がありました。
差が出ていたのは、箱入れ、段取り、機械が止まっている時間でした。段取りに想定以上の時間がかかっている。見積もり時の想定と実際の時間が大きく違う。それがグラフで見えるようになりました。

今見るべきなのは、「どれだけ動いたか」ではなく、「どれだけ動いていなかったか」です。
動いていない時間を見つけ、その理由を考え、一つずつ減らす。これが工場の効率を上げるために重要だと、データから気づかされました。
データがあるから、次の仕組みを作れました
データが貯まると、「ここに不具合がある」「この情報も見たい」「この作業を仕組みで防げないか」という気づきが増えます。そう思ったとき、すでにデータベースに材料があります。そのデータを使い、小さなアプリを一つずつ足していきました。
- 約1200個ある金型の番号、所在、工程、注意点を紐づける
- PDF図面を製品に紐づけ、必要なときに呼び出す
- RFIDカードで出退勤を記録し、勤務時間と売上を組み合わせる
- 製品ごとの工程データから標準工程表を作る
今のうちの工場は、データベースをハブにして、稼働可視化、金型の所在管理、図面管理、勤怠管理、標準工程表などの小さなアプリが周りにつながる構造になっています。
製品、金型、工程、作業者のデータがすでにあるため、新しい問題が見つかるたびに、ゼロから情報を集め直す必要がありません。同じ現場データを別の見せ方で使い、次の改善へつなげられます。
現在のダッシュボードでは、一日のショット数と売上を見られます。経費をすべて含めた正確な利益まではまだ計算できていませんが、その日の人数と労働時間に対して、どれだけの売上があったかは分かります。会社別、製品別に使った時間まで見ると、「本当に採算がよいのか」を考え直す材料にもなります。
勘ではなく、現場の事実で判断したい
これまでの加工単価は、「一回加工するなら、だいたいこれぐらい」という相場感で決まることがありました。ぼく自身も、勘で判断していた部分があります。しかし、人件費やその他の経費が変わる中、過去の相場感だけで判断するのは危険です。
日々のトラブルも同じです。「次から気をつけよう」「みんなで頑張ろう」だけでは、同じ問題がまた起きます。ぼくは、トラブルを人の注意力だけでなく、仕組みで防ぎたいと考えています。
最初から大きなシステムを作ったわけではありません。「今、本当に利益が出ているのか」という一つの疑問から、小さなデータベースを作りました。そこへ現場の事実を貯め続けたことで、次の問題が見え、次のアプリを作れるようになりました。
大事なのは、最初から何でもできる大きなシステムを作ることではありません。今、知りたいことを一つ決め、その事実を貯め始めることです。
あなたの工場にも、毎日生まれているのに、一度も使われないまま消えているデータはありませんか。